まなざしのデザイン

私は「まなざしのデザイン」という少し風変わりな研究実践を専門にしています。元々は街の風景や屋外空間を美しく整えるためのランドスケープデザインを専門としていました。しかし場所の風景や美しさというのは物理的な要素だけではなく、見る人間側の意識や意味、文化や価値観に大きく影響を受けています。都市や地域のインフラ開発が一通り落ち着き、これからは場所を利用するという課題へと時代の要請が移ってくる中で、“作り方”よりも“見方”のほうが重要になってくる時代へ入ってきます。だから場所のデザインだけでなく、それを見る人間側の見方をデザインすることが重要であると考えてこれまで様々な実験を行ってきました。

 

私たちが普段周りのモノを眺めるとき、無意識のうちにとても限定したモノの見方をしてしまっています。お箸は食事に使うためのもの。寝室は寝るための場所。図書館は本を収蔵して読むための施設。荒地は利用価値がないもの。そうやって私たちはある対象物に対して、目的や機能に応じた価値を当てはめて眺めているのです。それだけではありません。あまりに当たり前になりすぎてしまったものは、見てはいても意識に入ってこないことさえあるのです。例えば通い慣れた家から駅までの道というのは、自分にとっては慣れ親しんだものなので珍しさが薄れ、発見がだんだんとなくなってしまいます。そうなるとその場所は見るべきものとしての価値が下がっていくのです。私はその状態を、場所と自分との関係性が“固定化”していると呼んでいます。その固定化した関係性を様々な手段で変化させる方法が「まなざしのデザイン」です。この考え方を延長していくと、どのような場所やモノであっても何らかの価値を見出すことができます。

 

少しモノの見方を変えることで、今まで全く認識されていなかったような新しい価値が発見できる可能性が出てきます。それは地域の資源に関しても同じであり、それまで誰も価値だと思っていないようなものであっても、モノの見方を変えることで価値を生み出すことのできるチャンスがあるのです。